消えた天使 |

性犯罪登録者の監視をするバベッジ監察官は退職を前に新人の女性監察官アリスンに仕事のノウハウを教えるため、一緒に行動するが、同じ頃起こったある少女の失踪事件についてバベッジは自分の担当する性犯罪登録者が関係してるかもしれないと捜査にのめりこんでいく・・・といったストーリー。
冒頭のシーンに「怪物と戦うものは自らが怪物とならぬよう気をつけねばならない」というニーチェの言葉を引用した部分があるが、その言葉の通り主人公バベッジは性犯罪者に対して執拗に訪問や同じ質問を繰り返したり、ある時は覆面で顔を隠して登録者を襲撃したりと、職務の範囲を逸脱した危険な要素を持つ人物として描かれている。
犯罪者を調べるには犯罪者の側に立たなければわからない部分も多く、そういう危険な領域に踏み入れながら「お役所仕事」的な対応しかしていない本部の理解も得られず、警察ではないので大した権限も持たず、困難な状況の中で正義と真実を求めて行動していく姿は英雄的でもあり、狂気的でもある。
こういうキャラクターを見ていて、以前見たある事件の解決を被害者の家族に約束した刑事がその約束の為に事件の捜査に狂気的にのめりこんで破滅してう男の姿を描いたジャック・ニコルソン主演の「プレッジ」という作品を思い出した。
そういう危ういキャラクター性を持つバベッジ以外にも新たな相棒となるアリスンの隠された過去や、バベッジとの交流の中で最初はその行き過ぎたやり方に反発しながらも彼の信念や真意に気付き、理解して、監察官としても成長していく様子はうまく描かれているし、それぞれの特異な趣向を持った性犯罪者たちの姿もリアルに描かれていて恐ろしい。
平気で嘘をつき、人をダマしたり痛めつけたり苦しめる事に何の罪悪感も持たないこういった連中は人間の姿をしているが、人間ではない怪物としか言い様がないし、法の下にこういった連中が守られている現実も苦々しい。
この映画の登場人物の犯罪者では夫が殺人者で自らも脅されてその犯行を手伝ったというビオラというキャラクターが印象的。
また犯罪の焦点を性犯罪者だけに絞ったというのは他のサスペンスと違って個性的だったし、単なるサスペンスではなく今の社会が抱える問題を考えさせるという点も良いと思う。
キャスティングとしてはバベッジを演じたリチャード・ギアがこれまで彼が主演した映画のようなダンディなイメージの役柄とは掛け離れた薄汚いイメージで演じているのが新鮮だが、翻訳家の戸田奈津子によるとリチャードは普段服や身だしなみに全く無頓着なめっちゃ汚いオッサンらしいので地で演じたのだろうか?(笑)
アリスンを演じたクレア・デーンズは役柄的に「ターミネーター3」と似た感じの芯の強い女性役だったが、リチャードのキャラクターとの対比がいい味を出していてわりと良かった。
この映画の話題のひとつとして女性ロックシンガーのアヴリル・ラヴィーンが出演しているというのもあってチラシにはまるで誘拐される女性みたいに写ってるが、大して出番もなく、誘拐される役でもない「出ただけ」みたいな役だった。
