ノーカントリー |
狩りの最中に偶然ギャングたちが撃ち合いの末、大量の麻薬と大金を残して自滅した現場を見つけたベトナム帰還兵のモスはその金を奪い、組織から追われる身になってしまう~彼を追うのは非情な殺し屋アントン、そして保安官のベルだった・・・。
モスはアントンの追撃をギリギリで交わしながらも負傷し、何とかメキシコに逃れるがそこにはもう一人の追跡者カーソンが・・・・逃げながらも何とか打開策を考えるモス、モスをそれぞれ追うアントンとカーソン、モスの妻から彼を救ってと頼まれメキシコ入りした保安官、彼らに待ち受けていた運命とは・・・・といった内容。
とにかくしょっぱなから凄いインパクトのあるシーンが登場し、殺し屋アントン・シガーの存在感が恐ろしいほど強烈!
一見静かながらやってる事は暴力的極まりないし、ワケのわからん話を強引に他人にきかせようとしたり、コインで運命を決めるようなルールに縛られていたり、独特なキャラクターで、その冷たい目が感じさせる異様な表情と普通の殺し屋みたいに銃やナイフを使うでもなく空気ボンベを武器のように使って殺人していくという手法が何より個性的だった。
映画評では「ハンニバル・レクター以来映画史上最悪の悪役」とも言われたりしていたが、アントンは頭は良さそうなものの、考えるより行動といった感じで手当たり次第殺していくし、自分の傷を治すために必要な薬品を得るためだけに薬屋の前に停まっている車を爆破してその騒ぎの隙に薬を奪ったりやってる事は無茶苦茶で、狂暴ながら知的で頭脳を駆使するレクター博士とはどっちかというと逆の、また別物な恐ろしさと面白さを持ったキャラクターという印象。
この作品を見れば「映画史に残る悪役」というのはまぎれもない事実であるし、アントンを演じたハビエム・バルデムがアカデミー助演男優賞をとったのもうなずける。
一応主役はジョッシュ・ブローリン演じるモスだが、アントンはもう一人の主役というか映画の中での存在感は一番強かったし、トミー・リー・ジョーンズ演じる昔ながらの保安官の目を通して古き良きアメリカがもうすでになくなってしまっているという現実を感じさせたり登場人物それぞれの描き方も魅力的。
それから監督は2001年、同じくアカデミー賞を獲った「バーバー」のコーエン兄弟であるが、この監督の作る映画はいつもながら凝ったシナリオの構成や作りこみ、深さを感じさせる台詞など凄い映画を作る兄弟であるし、今回も「さすが!」と思わせる面白さとドラマティックさがあった。
ちょっとしたシーンでも物語のテーマ性を感じさせる台詞や描写がさりげなく入っていたりで、ラストは唐突ながらいかにもハリウッドな予定調和のない、不条理で気まぐれな狂気を感じさせる映画でもあったと思う。
モスにアントンが迫っていくサスペンスの撮り方もうまくてそれぞれのキャラクターが持つ動作や音の個性を巧みに利用して怖さを盛り上げていたし、アントンの殺し屋視点からの追跡描写に対して、アントンの持つボンベ武器ならではの手がかりを調べるとか警察視点からの追跡描写など色んな対場の人間が交錯していく展開もストーリーにひきこまれる。
とりあえず今の所、今年見た中ではベストな映画だと感じられる衝撃作だった。