私家版鳥類図譜/諸星大二郎 |
この本は異色の漫画家、諸星大二郎が「鳥」をテーマにSFやホラー、古代神話など様々なパターンで6つの物語を展開している。
第1話「鳥を売る人」はおそらくずっと先の未来を舞台に地下に住むようになって鳥や空の存在を知らない人々が、行商人がたまたま手に入れた「鳥」を目にして色んな反応をしたり考えたりといった人間ドラマが描かれており、普段私達にとってはいるのが当たり前の「鳥」が存在しない場合、それは今の世界でいうと恐竜やUMAのような感覚になるんだし、そういう「未知の生物」に出会った場合の人々の反応や感覚を面白く描いている作品だと思う。
続く第2話「鳥探偵スリーパー」は擬人化された鳥の世界で探偵をやっているスリーパーと助手のペンギンペットボトルを主人公にした物語だが、いくつかの鳥の種ごとの性質をパロディにしたような事件、諸星大二郎の作品にしては珍しいギャグっぽいオチなど意外な感じで笑える♪
第3話「鵬の墜落」は中国古代神話をモチーフに故事をうまく絡めたり、人類の創世や鳥の勢力争いなどを昔話風な雰囲気で描いていて、「西遊妖猿伝」のような諸星大二郎の得意とする伝奇的世界を楽しめる1編。
第4話「塔に飛ぶ鳥」は塔状に構成された世界の中心には「光」があり、世界の外は虚空があってそこには天使のような「鳥」が存在しているという設定の中でどこか外の世界から迷い込んでやってきた記憶の無い主人公をめぐる物語が展開されているが、最初この話を読み始めた時は「地球空洞説」のような地球の内側にある世界の話なのかと思ったが、そういうわけでもなく独特の「諸星的」なシュールな世界と心理ドラマが描かれている。
第5話「本牟智和気」は占いである鳥を捕まえれば口がきけない皇子が話せるようになるという事から出雲の国にやってきた大和人と鳥と話す能力を持つという鳴女の物語であるが、「妖怪ハンター」シリーズでもよく登場する「古事記」とか古代日本をモチーフにした神話的要素を持った作品でこれも諸星らしい1編。
第6話「鳥を見た」はあるビルの屋上に大きな鳥のようなものがいるのを目撃した少年たちの話であるが、少年時代に何か不思議なものをめぐって色んな想像を広げていったり、自分なりに本で調べたり友達と語り合ったり遊んだりとか少し懐かしさを感じるエピソードも盛り込みながら、鳥を調べる過程で知り合った入院中の子供との交流や「鳥」に画されていた悲しい秘密など少年時代に感じる楽しさや幻想、恐怖などがうまく盛り込まれた諸星版「少年時代」とも思える作品。
「鳥」というテーマひとつでこんなに色んな世界を展開しているのは凄いし、諸星大二郎の不思議な世界を存分に体験出来る1冊で、これまで読んだ諸星作品はどれも面白かったがこれは特に私好みだった。
これからもますます諸星的世界にハマってしまいそうな感じ☆
