メッタ斬り!歴史異聞録~幕末の真相へ! |
この漫画は幕末動乱期から明治時代の日本における様々な人物についての異説を描いたものであるが、収録エピソードとしては坂本龍馬、伊藤博文、西郷隆盛、徳川慶喜、西郷頼母、新撰組、斎藤一、沖田総司、小栗忠順など9話構成で人物や組織について描かれている。
坂本龍馬のエピソードでは龍馬の背後にいた商人トーマス・グラバーとフリーメイソンの関係性や、グラバーの思い描いたフリーメイソンによる日本支配の陰謀やそれを防いだ龍馬や勝海舟たちの行動など「フリーメイソン陰謀説」を中心に話が展開しているが「不思議ナックルズ」などでも検証されてるようにフリーメイソンは友愛団体であってこういう陰謀を遂行する怪しい団体ではないという説が強く、この場合はグラバーがメイソンのメンバーであったというだけで組織としてではなく独自に進めた陰謀という可能性が強いように思う。
続く伊藤博文のエピソードでは日本の初代総理大臣となった伊藤がかっては優れた忍者で数々の破壊工作を行なっていたテロリストであり、何と明治天皇の父であり、幕府寄りの考えを持っていた孝明天皇をその手で暗殺したという大胆な説には驚いた!
これまで読んだ本でも孝明天皇の不審な死については暗殺である説は書かれていたが、その実行犯は伊藤なんて説はなかったし、後に韓国総督府の総監になった伊藤を暗殺した安重根は「自国の天皇を殺す人間に我が国の総督を許すなど誇りが許さない」と語ったとも言われるし、安重根の背後にいたと言われる山県有明の存在など、この時代の「陰謀」については深い闇と謎が交錯していると思う。
それから西郷隆盛のエピソードでは西郷がロシアで生存していたという説を中心に、その風評がロシア皇太子が来日した際に起こった襲撃事件「大津事件」につながったという話でミステリーとしてはさほど印象的でもなかった。
徳川慶喜のエピソードでは一見迷君といわれる慶喜が実は無駄に戦って日本を混乱に陥れ、その隙に外国勢力が日本を蹂躙する未来にならぬよう、最善の道をとった賢人だったという説や彼に影響を与えた御庭番の思想など違う視点で描かれた慶喜像は面白かった。
会津の筆頭家老だった西郷頼母については歴史の翻弄されながらも「忠義」に生きた男の物語をドラマティックに描いていたり、新撰組のエピソードでは映画「御法度」でも描かれたような新撰組が男色の集団と化していた事実などが描かれていた。
ただ、この男色新撰組の漫画の絵柄がいかにもボーイズ・ラブな美少年キャラの絵柄になっていて、写真などから見る隊士たちの実際のイメージからしたら妙な感じだが、逆にリアルな絵柄で新撰組の男色を描かれてもキツイ気がする・・・(苦笑)
その次のエピソードは同じく新撰組に所属して三番隊隊長だった斎藤一が実は二重スパイだったという話であり、斎藤といえば昔読んでいた週刊少年ジャンプ連載の漫画「るろうに剣心」に登場していて印象に残っていたキャラで、その実像はどうだったのかと思ったが、漫画での「悪即斬」なストレートなイメージとは違って、任務のために様々な立場や困難な状況になりながらもそれを知性と柔軟な対応力で見事にこなし、明治後も生き続けた最後の侍といった印象を受けた。
次のエピソードも同じく新撰組で一番隊隊長だった沖田総司についてだったが、沖田が父のように慕っていた新撰組局長の近藤勇によって暗殺マシーンに育て上げられてしまったという皮肉な話と、病気によって若くして急逝した悲話を絡めて描いていた。
最後のエピソードは幕府の勘定奉行だった小栗忠順が将軍慶喜の怒りを買い、食を罷免され、隠居したという話は実は茶番であり、慶喜とともに計画した小栗が徳川埋蔵金を隠すための計画の一部だったという話でミステリー要素もあり、ちょっと面白かった。
幕末における教科書では語られていないこういった異説を知るのは面白かったし、特に私は伊藤博文の話に興味を惹かれたが、こういう一般的に国家で功績を上げたとされる有名人物の裏側にどんなタブーが隠されているのかなど一般市民が知る事が出来ないものだし、何かの拍子にそういうタブーが何らかの形で出てきた時、国家にとって都合の悪く認められないそういう危険ものは「都市伝説」や「異聞」として伝わっていくのかもしれない。
それにしてもこの漫画のプロローグとエピローグに登場する幕末について語るオッサンは一体誰なのか・・・しかもラストのオチが色々語ってきたけど、実はこの本(この歴史異聞録)をそのまま読んでただけという変なオチとかいらん気が・・・。
普通にエピソードだけで面白いので何でこんな余計な導入部分やオチを入れたのか、これが一番ミステリーかも?(笑)