京極夏彦が選ぶ!水木しげるの奇妙な劇画集 |
内容としてはまず最初のショートエピソード「生活種」からして水木らしい一見豊かな世界ながらシニカルなオチの効いたラストには「さすが!」と思わせたし、何故か大竹まことが登場する宇宙人ネタ「きのこ」、死神と貧乏神を仲間とする妙な少年を描いた「赤八」、伝記モノながらキャラの描写がやはり妖怪じみた「ベートーベンの生涯」、人間の夢や欲望、心の裏側、しがない男にとっての都合の良い妄想をネタにしたような「馬の骨」、「鬼婆」、「モテモテ神」、「幽霊丸」、「まれびと」、「運命の予定表」、「テレビジャック」といったエピソード、善悪の考え方が水木独特な異色の刑事モノ「刑事ヨタンボ 神のなる木」、水木流の何ともいえないエロティシズム表現を見せてくれる「エロ河童」と「続ゲゲゲの鬼太郎 幽霊家主の巻」、水木しげるが長年求め続けてきた考えの集大成ともいえる「鬼太郎霊団」とその続編ながら何故かエロネタに走ってる「ゲゲゲの鬼太郎 セクハラ妖怪いやみ」といった構成。
この本は妖怪漫画の御大「水木しげる」の単行本未収録作品をミステリー作家の京極夏彦セレクトで集めたものであるが、「関東水木会」会員である京極が選んだだけあって実にマニアックでクセのあるエピソードばかりで面白いし、存分に水木ワールドを堪能できる1冊で、何でこんな面白い話が今まで単行本に載らなかったのか不思議なくらい(まあ読んでみると当時からしたらネタ的にヤバイ事とかもいくつかあるし、あとがきによれば版権上の不具合などもあったらしい)。
エピソードとして特に印象深かったのは「鬼太郎霊団」であるが、水木が妖怪を描くのは「何か大きな力によって描かされている」とか、精霊との会話というのは「絵」でしか出来ないなんていう話は絵を描く人間として凄く興味深かったし、さらに私は悪魔や妖怪、怪物といった現世では目に見えないものをモチーフに描く事も多いのでそういう話に「実は私の周囲にもそういう存在が沢山いて絵を描いてもらいたがったり、絵としてコミュニケーションをとっているのではないか?」とか色々考えてしまった。
それにしても「鬼太郎霊団」は人類や地球レベルで話が語られるスケールの大きさや深さがあった話ながら、第2話として用意されたその続きが「セクハラ妖怪いやみ」という実にゲスい人間臭いネタというのには驚かされるし、そういう何とも水木しげるらしいセンスの面白さは本当に人間的にも不思議な人物。
今回読んだのは京極セレクションの第2弾だったらしく、同じく未収録作品を集めた第1弾「京極夏彦が選ぶ!水木しげる未収録短編集」もまた読んでみたい☆
