恐怖&ホラーシリーズ 戦慄の惨劇編 |
この本は様々な漫画家たちの恐怖作品を集めたアンソロジー本であるが、収録作品としては手塚治虫「ペーター・キュルンテンの記録」、伊万里すみ子「闇夜のことでなく」、池上遼一「人面蝶」、井浦秀夫「脅しの報酬」、はざまもり「二つの顔の悪魔」、玄太郎「からくり人形殺人事件」、篠崎佳久子「影」、山上たつひこ「石の顔」、星野之宣「ローレライの歌」の9編。
まず手塚治虫の「ペーター・キュルンテンの記録」は実際にいた殺人鬼をモデルにしたサイコスリラーで昔読んだ事があったが、初めて読んだ時はそれまでの手塚作品のイメージを覆す暗さとショッキングなイメージで驚かされたし、改めて読んでみると強烈な内容であると同時に人間の狂気と愛情、苦悩を描いたドラマ的作品としてもとても読みごたえがあった。
伊万里すみ子の「闇夜のことでなく」はホラー的というよりパラレルワールドを描いたSF的作品だが、そこに女性的視点の心理ドラマ的要素をうまく取り込んでいるのが面白かったし、池上遼一の「人面蝶」はこれまで彼の作品といえば小池一夫原作系の濃いアクション漫画しか読んだ事がなかったのでこういう怪奇でミステリアスな作品は古い作品ながら逆に新鮮。
ちょっとサナギマンを思い出すようなグロテスクさな人面蝶の蛹の描写もなかなかインパクトがあった。
それから井浦秀夫の「脅しの報酬」はちょっとギャグっぽいユルい展開ながらそこに一瞬潜む狂気の見せ方はハッとさせる怖さだったり、はざまもりの「二つの顔の悪魔」は一見映画でもよくある多重人格的スリラーかと思いきや、実は・・・といった作りでわりと楽しめた。
玄太郎の「からくり人形殺人事件」はこの本で初めて知った漫画家の中では画風といい、世界といい今回一番気に入った作家であるが、主人公の何ともいえない怪しさとかいかにも昔の二流劇画誌風のコッテリした画風、たまに入る変なユーモア感など奇妙なイメージが膨らむような世界観は面白い☆
篠崎佳久子の「影」は「二つの顔の悪魔」にイメージ的に近いサイコスリラー的話であるが、こちらの方が本来の多重人格的スリラーに近い内容で、青年期における繊細な心理をうまく織り交ぜながら描かれた作品だったし、山上たつひこの「石の顔」は「がきデカ」で有名な著者のイメージからすると意外なオカルト系話の上、ブラックなラストなど、彼が得意とするユーモア的表現もありつつ内容的にやってる事は結構怖いという面白さがある。
ラストの星野之宣の「ローレライの歌」は以前「妖女伝説」で読んだ事があるがこのアンソロジーの締めくくりにふさわしい物語だったし、知ってる漫画家の意外な側面を見せた作品とか知らない漫画家の初めての作品世界など様々にホラーを楽しめるアンソロジー漫画本だったと思う。