アジール・セッション |

何らかの戦争があり文明が衰退し退廃した未来。女子高生ヒヨコはかっては天才画家と謳われた今は亡き母の影響を受け、自らも絵を志し美大を目指していたが刑事である父は美大進学を認めようとせず母の絵も処分してしまったため反発したヒヨコは家出してしまう・・・しかし行くあてもなく彼女が辿りついた先はストリートで生きる人々がテントで暮らすスタジアム「アジール」だった。
アジールは町の美化を建前に利権絡みで警察が取り壊しを図ろうと日々住人たちと衝突している危険な状況で、事態打開のため住民たちは取り壊し反対運動としての芸術イベント「アジール・セッション」を計画し、メインパフォーマーとしてスタジアムの巨大キャンバスに絵を書く事になったアキラにヒヨコは絵を教える事になる・・・ヒヨコはアジールの人々との交流で自らを見つめ直し成長していき謎の過去を持ったアキラとも仲良くなっていくが、一方ヒヨコを探す父親とイベントを潰そうと警察が動き出していた・・・・といったストーリー。
この映画の事を知ったのは私が所属するIFAA(国際幻想芸術協会)の画家仲間であるたつき川樹さんが作品をこの映画に提供しているとの話をしておられたので、知ってる人の作品が出ているのであればどういう風に映画になってるのか観てみたいし、映画好きとしての観点からも「映像」の中の「絵」の使われ方とかどういう風に見せているのか気になるところだし興味があった。

で、作品の出来であるがオールCGアニメという事で多少キャラクターの動きがぎこちなく感じられる部分もあったがそれもイイ味になってるというかハイテクと退廃が混在する未来社会とそこに生きる個性的な人間たちのデフォルメされたイメージに合ってた感じがするし、荒削りながらダイナミックなアクションや感情をぶつけ合うようなストレートな台詞と人間ドラマは監督のアオキタクトのセンスやメッセージ性がよくあらわれていて面白かったと思う。
たつき川さんの絵は主人公ヒヨコとその母の描いた絵として登場するがうまく映画の世界に溶け込んでいてストーリー上も重要要素だったし、繊細なたつき川さんの絵柄はダイナミックなアオキタクトの絵柄とはまるっきり逆というのが映画の中に新しい要素が入って映像として深みが出ていたと思ったり、こういう映画と絵画のコラボというのは面白いと思う。
それから同時上映されたアオキ監督の初作品「ハルヲ」はこれも「アジール~」と同じく何かの戦争後の退廃した未来社会が舞台でそこに生きるストリートチルドレンで盗人稼業を行なっているハルヲが夫を殺された子持ち女性と関わった事をきっかけにその町のヤクザに対して戦いを挑んでいく・・・というようなアクションものであるが世界観のイメージやサイボーグ的設定など松本大洋の「鉄コン筋クリート」や押井守の「攻殻機動隊」、はたまた絵のダイナミックさはヒロモト森一の「HELLS ANGELS」なんかに共通する世界ながらキャラクターや話の見せ方などはまぎれもなくアオキ監督の個性が滲み出ている強烈さがあるし、「アジール・セッション」はここから発展したのだというのがよくわかる映画で30分の作品ながら結構楽しめた。
アニメ映画はこれまで結構大作志向のものしか観た事なかったがこういう手作り感のある作品も面白いと思ったし気になる感じのものがあればまた観てみたい。
そういえばこれを観に行った昨日は初日で監督自身が舞台挨拶で登場したのだが観客全員に主人公の「ヒヨコ」とかけて東京土産のひよこ饅頭をプレゼントしたりして結構面白い人だった(笑)
