朱雀門 |
この漫画は中世日本を舞台にした奇怪な世界が展開され短編集であるが、収録ピソードとしては胸に巨大なダニを寄生させる風習のある貴族の家の話「崇親院日記」、虫に縁深い力を持つ鏡と剣にまつわる復讐物語「虫剣虫鏡」、貴族の卑しい根性をあらわにするような「つむじ風」、ある忌まわしい行いから尻に犬の頭が生えてきてしまった男の話「狗尻」、彗星が出た頃に敵勢力の襲撃を受けてある寺にかくまわれた娘が体験する異様な話「彗星」、人相占いにすぐれた僧と蜘蛛にまつわる怪奇話「朱雀門」、奇妙な雌の魚と結婚した父と生活する娘の違和感を綴った「市魚」、猿の脳味噌を喰う武士たちの姿を描く「猿」、不可思議な術によって鬼神を作り出そうとする男の顛末を描いた「感応」、山奥に棲むキノコの精たちと子供の交流を疎ましく思った大人たちの暴走が起こす悲劇の話「茸の精」の10編。
通常こういう中世の日本を舞台にした不思議要素のある漫画といえば岡野玲子の「陰陽師」など貴族の日常と呪術的要素を華麗に描いたような世界観のイメージが思い浮かぶが、この花輪和一の描く中世日本の世界が全くもって「異様」でその設定からして独特すぎるグロテスクさが面白い☆
印象に残った作品としては、まず「崇親院日記」の「おだにさま」と呼ばれる巨大ダニを女人の胸に寄生させるという妙な発想に加え不幸な登場人物たちの状況がいたたまれなかったり、さらに不幸なラストへの持っていき方など凄まじい!
「狗尻」にしても尻に犬の頭が生えているなんて変態チックな発想に驚かされるし、その原因となった因縁めいた話も悪どく悲惨なのがブラックな面白さ♪
「彗星」は子供が仏像の中に噛み砕いた食べ物を吐き出すという謎の仕事をさせられたり、全身燃やして仏になるという過酷な僧の行などの要素を絡めたミステリアスなストーリー展開が楽しめたし、表題作「朱雀門」は蜘蛛の糸が顔をはぎとるという奇妙な設定や口がはがれた女を無残に殺す展開などなかなかのインパクトがある作品だった。
しかし一番インパクトが強かったのが「市魚」で魚と結婚するという異常な設定を全くの普通の出来事として周囲の者たちがとらえている日常の異常さやその状況に違和感を持つ少女の視点が面白く、まさに「花輪的世界」と思わせる独特さで凄く味わい深い一編だった。
また「猿」は猿の脳味噌を食べれば猿のように身軽に動けるという武士たちの日常を描いた話だが猿の脳味噌を食べるイメージといえば真っ先に「インディジョーンズ 魔宮の伝説」を思い出してしまった(笑)
それにしても猿を喰ったお返しに人間の子を猿に喰わそうとしていたりする思考のサイコさが恐ろしくもユーモアがある感じ。
「感応」は何といっても鬼神を作るための呪術の過程のアイデアが独創的で面白かったし、登場する奇妙な人々はちょっと日野日出志漫画に出てきそうなテイストだったのも不気味な楽しさ☆
全編読み切ってみてその濃さと衝撃度に圧倒されたが、卑しさとおどろおどろしさいっぱいな貴族たちとグロテスクな異界の住人たちが交錯する花輪の異様な中世世界が存分に楽しめる1冊だったと思う。